平成28年9月4日
標記について、下記の通り報告します。
記
○ 基本情報
派遣学生氏名 山﨑あかり
在籍大学名 千葉大学
派遣先大学名 アリストテレス大学テッサロニキ
奨学金支給期間 平成28年度8月
派遣先国・地域名 ギリシャ・テッサロニキ
○ 派遣内容
派遣プログラムの内容について
2016年8月15日から同年8月29日までギリシャのテッサロニキに位置するアリストテレス大学テッサロニキに所属し「遺跡と地域開発への影響」をテーマに、パブリック・アーケオロジーを学ぶプロジェクトに参加した。このプロジェクトでは、コラボレーションとチームワークが重視されており、アリストテレス大学と千葉大学両大学の学生約30人混合のグループワークでプロジェクトは進行した。派遣先大学だけに留まらず、フィールド調査のためにヴェルギナとディオン、ペラそれぞれの世界遺産と付属の考古学博物館を訪れ、博物館職員や村長の講義を受けた。これら3箇所の遺跡では、社会学のthe extended case methodsを用いて、異なる社会的立場の人々:地域住民、観光客、遺跡関係職員、店員にインタビュー調査を行った。それぞれの遺跡に対する異なる解釈を統合した結果から、テッサロニキにおけるパブリック・アーケオロジーの課題を明らかにし、それを基にグループごとにプロポーザル案を導き出した。最終的には課題とプロポーザルについての最終プレゼンテーションという形で調査結果を視覚化した。このプログラムでは共通言語として英語を用いた。
学習成果について
考古学は歴史や文化、地域性と密接に関係するにも関わらず、その専門性の深さから専門家に独占されたり、物質中心主義に走る傾向にある。これは世界有数の遺跡大国であり考古学が発展したギリシャでも、また日本でも共通して、現代の考古学が向き合うべき課題だと言える。イギリス発祥のパブリック・アーケオロジーは、物としての遺跡研究から過去の歴史を明らかにするだけではなく、ベクトルを未来に設定し遺跡とこれからの社会のあり方を再考するものである。パブリック・アーケオロジーがその名称の通り、考古学という学問領域をパブリックに広げようとする試み、遺産と社会の関係性を問い直し社会の持続可能な発展を目指す試み、そしてその際に直面せざるをえない課題は、私が専攻する現代芸術でも特に過去20年にホットな動きとして議論されてきた。パブリック・アーケオロジーを学んだことは、単に考古学や社会学に関する知識と理解を深めたということ以上に、自分の専門科目を新しい視点から考え直すことができたという点で意味があった。
私達のグループ8人は、早い段階で筋の通ったプロポーザルのアイディアが固まり、議論も白熱する順調なグループの1つであるように見えた。しかし、実際の議論の多くは建設的なものではなく、道徳心や感情のぶつけ合いであり、最後は個人の罵り合いで終わることも度々あった。母校の授業でも議論を中心に展開する授業は多く、私は相手の意見を聞きつつ強く自己主張することに慣れていると自覚していたが、この時は感情的な対立を前にして完全に閉口した。メンバーが怒りと動揺、困惑、苛立ちで感情的に大きく揺れ、傷付くメンバーさえいる中で、共通の教育的ゴールに向かって、どのように言語能力、社会的・文化的背景、意見や価値観の激しい対立を乗り越えるのか、どこで落とし所をつけるか、その解決策を模索することが急務となった。私は感情に左右されない。後から思えば、感情に流されず皆の主張のポイントを整理してプロポーザル案に結び付けていく立場のメンバーが私達のグループには決定的に欠けていて、それは私が担うべき役割であった。実際の私ができたのは一時的な場の収束とメンバー個別のケアであって、結果的に私達のプロポーザルは最初のドラフトから発展せずに最終発表を迎えることになった。最後のグループ内の「喧嘩」をきっかけにグループのメンバーが全体的に萎縮し、新たな対立を避けるために、プロポーザルの核となる部分の議論を避け、飾りとなるテクニカルな点を個人で詰めていくことになった。同じ机を囲んでいても実際は集団での個人作業となっていた。それも1つのコラボレーションのあり方だと言えるかもしれないが、出来上がったプロポーザルは詳細は緻密であるものの、軸が曖昧で、さらにその内容はメンバー全員に共有されていなかった。議論の躓きをきっかけに、プロポーザル作りのプロセス重視からプレゼンテーションを見せるというゴール重視になり、見栄えだけ良い形骸化したプロポーザルとなってしまった。パブリック・アーケオロジーにおいては、伝統的な考古学に限らず、社会や経済、政治、歴史等分野横断型のアプローチが重要となる。私達のメンバーはジャーナリズム、都市開発デザイン、社会学、フランス語、化学、教育、そして現職の考古学者と、理想としては協働作業を通してそれぞれの専門性をプロポーザルのために引き出し統合できたはずであり、後悔が残った。民主主義の理念が市民一般に浸透しているギリシャだからこそ、学生達の批判的、論理的に自己主張を貫く態度、自律性、そしてもちろんそれらを支える、メンバーの構成員であるという強い責任感に圧巻された。グループワークにおいて課題は多く残ったが、このプロジェクトの過程で課題にリアルに向き合い考えたことは貴重な経験となった。
海外での経験について
これまで留学、インターンシップ、観光を目的に、海外に最長1年以上滞在した経験があったが、今回のテッサロニキでの学びは今までにない新しい海外経験となった。講義、フィールド調査、データ分析、議論、発表という形での共有、フィードバックというサイクルは、時間の制限があったことからもスピード感のある濃い2週間となった。海外経験を語る際に滞在期間の長さを強調しがちであるが、期間よりもその内容を問われるべきであることを改めて思った。また、今回は上記したグループワークのような感情に訴えかける経験が積み重なったこともあって、感情を受け止めそこからどのように思考しプロジェクトを前に進めるのか、常に問われているように感じた。
今後の進路への影響について
派遣プログラムが必ずしも直接的に進路に影響する必要はないと思うが、私の場合は元々ヨーロッパでの修士号習得を検討していたので、今回のプログラムを通してその思いを強くした。プログラムのテーマからは少し離れるかもしれないが、テッサロニキの考古歴史と深く繋がる現代アートシーンが非常に興味深かったので調査でまたこの街を訪れたいと強く思う。
派遣プログラムの感想を英語で20~35語
ボツ前:Jumping in the Mediterranean sea with clothes on was my highlight of GSP 2016. In that completely adventurous, passionate and weird life in Greece, I felt everything, and I was free.
ボツ後: I am delighted to participate in this thought-provoking and still fun educational project with my lovely friends. A marvelous opportunity to attempt to transgress our differences and be together through the collaboration towards the common goal.