Canpath
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燃え尽き症候群

ロンドンのノッティング・ヒルからバスに乗って、オックスフォードに着いた。もうあたりは暗く、外はよく見えない。迎えに来てくれたトーマスと買い物だけして、家に向かう。中心地から少し離れた場所にある川の畔に、その家はあった。トーマスによると、この場所は四方を川に囲めれているため、島とも呼ばれているらしい。

朝起きる。静かだ。
トーマスは「お前を肥大化させる計画の一端だ」とか言いながら特大のオムレツやニンジンのたくさん入ったスムージーを作って勧める。それから、トーストに、ヨーグルトに、次から次へと。

外に出る。トーマスの歩く速さについていけない。僕はよちよち歩き程度しかできない。すでに4年半住んでいるトーマスはこの街の歴史にも詳しい。大学建築の様式美や、そこで行われている研究について、溢れるように知識が出てくる。それに聞き耳を立ててはいるが、取り巻くこの環境に自分だけ後から糊付けされたような感覚に襲われる。道行く人たちと同じ空気を吸っているかどうか、定かではない。

たぶん、燃え尽きたんだ。これが、その感覚だ。

人が次々と殺されていくのに何もしない国際社会への怒り。物理的に、実質的に救わないとこの世界は持たないと思った信念。燃え盛っていた炎が、ふっ、と、消えたんだ。

終わった。南スーダンでの任務が、終わった。

感覚ごと記憶に残しておこうと写真を撮る。あの有名な溜め息橋を過ぎたところでトーマスに謝る。
「悪いな、なんかお上りさんの観光客みたいに写真撮って」
「まあ、観光客なんだから仕方ないんじゃん?いや、待て、お前観光客じゃねえよ」
「あ?」
「オックースフォード市民だよ、お前は。もう、住んでるんだから」
オックスフォード市民、か。

この記事を書いた人

一風
現在地:ミャンマー
オランダの大学院を出て人道支援を始める。現在国際機関に勤務。

一風さんの海外ストーリー