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紛争地からの帰り道

「日本に帰るの、楽しみ?」
こういう質問をこれまでたくさんされた。いつも答えは変わらなかった。
「その質問を何度も自分にしているんだけど、答えが見つからないんだ」
大きな荷物を背負い、エルサレムから空港行きの乗り合いバスに乗った今も、それ以外の返し方は見つからない。

テルアビブ空港でいつものようにまったく馬鹿げたセキュリティチェックを延々と受けてから、飛行機に乗る。

飛行機が、滑走路の上を加速する。

何だろうこの感じは。約2年間の駐在を終え、自分は母国に帰ろうとしている。それ以前に、この戦乱の地から離れようとしている。この場所はある意味僕を人間的に成長させてくれたかもしれないが、礼を言う気にはならない。ここで僕はたくさんの人と出会い、別れを経験した。これまでそういったことを経験した場所では、離れるときに自分の感情を引きとめるような何かがあった。しかし、この地を去るのは、悪くない。決して悪くないと思う。

情が移らなかったんだ。愛情も、同情も、友情も、慕情も、この地には生まれなかった。これまで長期滞在した国の中で初めて、飛行機の中で涙が込み上げなかった。そのことが不思議でもあり、幸運でもあり、惜しくもあり、悔しくもあった。ここで不器用なりにも友人と呼べる関係になった人たちとは、将来ここ以外の場所で会いたいと切に願う。そうすればもう少し、自分をわかってもらえるかもしれないから。


飛行機は中継地の韓国ソウルに着き、僕は噂の空港にある銭湯を探した。聞いてみると入国ゲートの外にあるらしいため、パスポートにスタンプを押してもらい、僕は風呂に入るためだけに韓国に入国した。

すごく設備の整った、そして人のいない銭湯の中で、湯につかる。静かだ。そういえば長い間湯につかってなかったな。こういうことをしながら、元の自分に戻っていけるのかな。加害者と被害者という立場を考えずに日々暮らしていけるようになるのかな。人の嫌悪感に嫌悪を感じず、人の怒りに憤怒せず、人の嘲りを嘲笑せず、人間味という言葉を本来人間が持っている温かさや朗らかさという意味で使えるように、なるのかな。

ゆっくり風呂から上がった僕は韓国を出国し、日本行きの飛行機に乗り込んだ。

この記事を書いた人

一風
現在地:ミャンマー
オランダの大学院を出て人道支援を始める。現在国際機関に勤務。

一風さんの海外ストーリー