Canpath
5554 views
1 応援!
0

若手天文学者たちとの冬の学校

 西オーストラリア州・パースの沖にあるRottnest島で天文冬の学校ーHarley Wood School of Astronomy (HWSA)に参加してきました。HWSAは毎年、オーストラリア天文学会の年会の直前にある天文学を学ぶ合宿です。毎年オーストラリア全土とニュージーランドから天文学を学ぶ学生が集まります。そのうちのほとんどはPhD学生。中には学部生や修士学生も混じっています。2ヶ月前に留学先の指導教官に行きたいということを相談したところ、参加費と航空代を出していただけるということになりました。とても感謝しています。

 パース空港から約1時間バスに揺られてフェリー乗り場に到着。そこからフェリーで半時間ほど行ったところにRottnest島ありました。ビーチがきれいな小さな島。島にいる人はほとんど観光客か観光業従事者。小さくて可愛い動物ーQuokkaだらけでビーチがやたらときれいな島。
Quokka

Quiz Night

 到着した最初の夜はクイズ・ナイト。バーで晩御飯を食べてから会場へ移動し(会場も別のバーでした)、2階に上がります。10つのテーブルに分かれており、自分の名前を探して座ります。1チーム5名・・・のはずが私たちのチームは4名しかおらず。"Potent Pretenders"ベスト・チーム名賞とギリシャ文字のクイズで1位を取りました。肝心のクイズの総合結果は最下位でした。最下位になったが故になぜか商品がもらえました笑。

レクチャー

2日目からは招待講師によるレクチャーが目白押し。天文学のありとあらゆる分野のレクチャーが行われました。レクチャーの内容は以下のとおり。
レクチャー

◯レクチャー1:Skills Inside and Beyond Astronomy
 天文学を修めたあとのキャリア形成に関するレクチャー。博士課程進学者の枠やポスドクの枠は過去と比べて随分と数が増えたがその上のポスト(常勤研究員や教授職)の数はそれほど増えていない。博士時代及びポスドク時代に身につけるべき「書く」スキル、面接のテクニック、そしていつの時点でもネットワークを広げることを忘れてはいけない。自分の1年後、3年後、5年後、10年後とどんな研究をしていたいか、どこで働いていたいかを常に意識し、そのビジョン実現のためにアクションを起こそう。

◯レクチャー2:FRBs and Multiwavelength Follow-up
 突発的な電波が観測されるFast Radio Burst。わずか30分間の間に空の別の領域で発生するため、フォローアップが難しい。ここ数年間でMolonglo干渉計などでサーベイ観測が可能になり、他の波長でのフォローアップのために電波波長ではParkes, Molonglo, VLA、光赤外波長ではCTIO, DECam、紫外線・X線・ガンマ線はSwiftと連携を取り始めた。今後の研究結果に注目したい。

◯レクチャー3:Galaxy Evolution & Multiwavelength Surveys
 多波長でみる銀河進化のレクチャー。銀河がどのような過程で進化するのかはまだはっきりとわかっていないトピックの一つである。進化の過程は銀河の中で起こっていること(星形成など)銀河がいる環境(近くに銀河があるか、グループに属しているかなど)で決まる。銀河進化をさらに研究するためにはあらゆる波長での分光スペクトルを含むサーベイで高い分解能と深いところまで見えるデータである。

◯レクチャー4:Cosmology using Optical & IR Imaging Surveys
 天文学でどのようなサイエンスがしたいか、どうすれば実現できるか、その計画は現実的なのかなどが短期間でよくわかるので観測のプロポーザルを書いてみるのはとてもお勧めである。観測的宇宙論の研究で置き換えてみると目指しているサイエンスゴールは銀河団、弱い重力レンズ効果、超新星爆発の距離測定などが挙げられ、それぞれのゴールのためにサーベイ計画や新望遠鏡建設が進められている。

◯レクチャー5:The Astronomers IT Toolkit
 天文学の研究で使用するソフトウェアの紹介をするレクチャー。python、IDLなどのプログラミング言語からanacondaなどのライブラリ、複数のfitsデータから星をマッチング出来るX-match、ログブックとして便利なEvernote、論文の整理のためのPaperなどを紹介。Pythonは天文学のライブラリも豊富でaplpyなどは天文座標を扱うのに良いほか、fitsデータのビューアーとしてはkvisがおすすめ(私はDs9派)。また、データベースとしてはSIMBADやSkyviewが使いやすい。

◯レクチャー6:IFU Science and its Future
 光学望遠鏡に設置するIntegrated Field Unitによって得られるデータでのサイエンス。空間的な2次元データのみでなく空間+スペクトルの3次元データを取る手法で現在はポピュラーになりつつある。これまでに始まっているIFUを用いたサーベイはAATによるSAMIサーベイ、近傍銀河を観測するCALIFAサーベイなどがある。

◯レクチャー7:Observation and Simulation of Star Formation Processes
 星形成領域の分子雲の観測のこれまでとこれからについてのレクチャー。これまでの星形成領域の研究は太陽系からごく近傍の部分の観測に限られてきたがこれからはさらに遠い星形成領域の分子雲の観測が可能になる。ALMAの分解能はすごい!これからの10年間はALMAの時代になるだろう。

◯レクチャー8:Simulations: Supernovae and Polluting the ISM
 質量の大きな星は核融合によって進化し、最終的には超新星爆発を起こして中性子星かブラックホールになる。この現象の物理現象を明らかにするためにスーパーコンピュータを用いてシミュレーションを行った。(あまり関係ないけどANUのスパコンは富士通製の「雷神」っていうらしい)

◯レクチャー9:Statistics in Astronomy
 天文学で扱う統計学についてのレクチャー。ほとんどが理論天文学関係で用いられるが、観測天文学の解析にも使われることがある。物理モデルの選択方法、パラーメータ・フィッティングの際に必要になる。ベイズ統計やモンティ・ホール問題(車とヤギがいるドアの問題)などを含めて幾つかの統計手法を紹介された。

◯レクチャー10:Fundings, institutions and Governance in Australia Astronomy
 オーストラリアの天文学がどこで研究されているか、その研究をサポートしている母体はどこか、フェローシップを見つけるにはどうすれば良いかなどこれから天文学に関わり続ける人がどこかで知らなければならないお金や政府関係のレクチャー。10年ごとに更新されるDecadal Planを読むことがおすすめ。

◯レクチャー11:Equity and Diversity in Astronomy
 天文学の世界でのダイバーシティについてのレクチャー。過去10年間でオーストラリアの天文学の世界ではダイバーシティー化してきた。天文学分野の女性研究者の増加、そして研究者やその他の天文学に従事する人はオーストラリア人のみならず海外からの人もかなり多くなった。しかしどんな人でも気づかないうちにある種の色眼鏡(というか偏見)を持ってしまっており、雇用の機会や会議の決定権などが完全に平等になっていない。まずその事実について知り、ひとりひとりが意識することによって天文学の世界はよりダイバーシティ化できるだろう。

◯レクチャー12:Effective Communication of Science in a Public Context
 天文学分野のアウトリーチ活動、サイエンスコミュニケーション活動に関してのレクチャー。学生のうちから地域社会やSNS、その他の団体を通じてプログラムを作ったりトークをしたりという経験は必要になる。また、自分のしている研究を一般の人にわかりやすく伝えるためには何を「何を研究しているか」ではなく「どんな疑問や謎を解き明かすために研究しているのか」という切り口の方が興味を持ってもらえる。

もうひとつの大きなメリットは人との出会い

 レクチャーはとても吸収するものが多かったですがもうひとつとくにためになったことは人との出会いです。天文学の世界は以外と狭く、研究をしているといずれは全員と知り合うことになると言われるほど限られた世界だったりします。実際に日本の電波天文学の研究者の名前を挙げられると大体は聞いたことがある、と答えられると思います。HWSAであった人の中には鹿児島大学の教員と同じプロジェクトチームで研究をしている学生や現在私がオーストラリアでお世話になっている受け入れ教員が副指導教官として指導している学生さんとも出会いました(彼らはどちらも別の大学です)。また、アウトリーチのレクチャーをされた方は昨年PULSE@Parkesというアウトリーチプログラムが日本で行われた際にお会いした人でした。同じくキャンベラのANUから参加した学生が数人いましたがこれまで全く喋ったことがなかったので交流できてよかったです。新しく知り合った人が大多数でしたが、レクチャー1であったように積極的にいろんな人に話しかけてネットワーキングに努めました。自分の研究について話して興味を持ってもらえるほど嬉しいことはありません。モチベーションが最高に上がった状態で冬の学校を終えることができました。
満月の割にはいい星空
HWSA

この記事を書いた人

Canpath user icon
Chey Saita
現在地:日本
ベルギーで幼稚園時代2年半、マレーシアで小学・中学時代4年間過ごす マレーシアでは英国系インターナショナル・スクールに通う 帰国後は兵庫県立芦屋国際中等教育学校に編入。3期生。 鹿児島大学理学部物理科学科宇宙コース->鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻 第2回サイエンス・インカレ ファイナリスト IAC2014(宇宙国際会議)のJAXA学生派遣プログラムの代表生 トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム 1期生 オーストラリア国立大学にて電波天文学を研究するために留学

Chey Saitaさんの海外ストーリー