Canpath
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地球の研究と自分の道

アレックスはニューヨークにあるコロンビア大学の地球研究所で研究をしている学生で、知り合いのつてでようやく会うことができた。アメリカのいわゆるアイビーリーグと呼ばれる名門校とオックスフォード大学はかなり強力な提携がなされていて、アレックスは結局オックスフォード大に籍があるのか、コロンビア大なのか、よくわからない。博士課程ともなると色んな学会やら何やらに参加して活躍の場を広げるのは当然のようで、とにかく地球規模で物を考えてるっていうのがわかっていればそれでいいといった風潮もある。

思った通りの好青年で、素直に物事を捉える性質のため、素直な疑問をぶつけて知識を広げるタイプの人だ。彼の家には今オーストラリアから彼氏が来ていて、一緒に食卓を囲んだ。同性のカップルなんて、ここらではそんじょそこらにいて、違和感がない。

地球研究所といえば、所長はジェフェリー・サックス博士。そしてサックス博士は現在オックスフォード大で数回にわたる講義をしていて、アレックスはそのモデレーターを務めている。サックス博士は国連のパン・ギムン事務総長が側から離さなかったブレインの一人で、地球のことを知りたかったら彼に聞けばいい、とも言える人物だ。僕は日本でTICAD(アフリカ開発会議)があったときにパシフィコ横浜まで彼の講演を聴きに行ったことがある。あのときの彼は外務省の高官の手前、日本のアフリカ途上国に対する寛大な援助についてリップサービスを振りまいていて、彼の頭脳の中身の片鱗にすらも触れることができなかった。腹が立ったから質問票に最も辛辣な意見を書いて残していったら、後で彼の著書が主催者から送られてきたのを覚えている。

地球で今何が起こっているか。それを知るには誰と話せばいいか。こういった質問は重要だ。サックス博士と食卓を囲むことはできなくても、アレックスとなら話せる。むしろ彼の方がわかりやすいかもしれない。「・・・について、どう思う?」という質問は、このレベルになると手に汗握る。しかし、なんだかんだ言って紛争地の現場の状況は彼にとっても驚愕だし、そこから手にした物の見方は彼の知力にも負けない強さがあるってことに、自分でも驚く。僕は僕なりのやり方で地球を研究していたのかもしれない。

「明日が最後の講義だから、よかったら来なよ。正午に、地理環境研究科の講堂だよ」
というわけで、僕はサックス博士の講義に顔を出すことになった。


サックス博士は、どもらない。言い間違えがない。データや数値が、さも音読されているかのように滑らかに口から出てきて、聞き手に負荷をかけない。「21世紀における地球の変化」という巨大なトピックを、地理軸時間軸共に膨大なスケールで話しているのに、明日の関東地方の天気予報を話しているレポーターみたいだ。

学部生がいる講義だったからあんまり専門的な話にならず、多少欲求不満になったけど、オックスフォード大で全く関係ないのにこんな講義を聞かせてもらえたのだから満足するべきだろう。アレックスには感謝だった。

しかし、ふと立ち止まって考えると、このレベルの議論についていけている自分がいる。オランダで修士号を取ってから10年。考えて、考えて、考え抜いて、世界の僻地中の僻地を駆け抜けてきた。自分で言うのもなんだけど、僕の20代は10代のときの倍以上のスピードで成長した成長期だった。知らない間にそれなりの蓄積ができていたのかもしれない。

僕は、これから何をすればいいだろう。

就活を始めた。10年前箸にも棒にも引っかからなかった国際機関のポジションが、いつのまにか手の届く範囲にある。自分のプロフィールを、この国際的な人材市場に乗っけてみよう。やるからには、きちんと自分の何たるかがわかるように見せなければいけない。難題は、10年前はどんな危険地でも体張って行きます、という体(てい)だったけど、今回はそうはいかないから、本部のあるジュネーブやブダペスト、コペンハーゲンが主なターゲットになる。そうなると倍率は非常に高く、こちらの売り手市場には決してならない。それにしても、ヨーロッパでは難しいのにシリアやイエメンでならいくらでも仕事が見つかるっていうのは変な現象だ。

とにかく、道を選んで、また、ハンドルを握ろう。

この記事を書いた人

一風
現在地:イギリス
オランダの大学院を出て人道支援を始める。現在国際機関に勤務。

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