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天文学生の就職ポテンシャル

 留学先の大学でとてもためになるセミナーがあったので記録として書きます。 セミナーのタイトルは‘How can a PhD in Astronomy prepare you for doing other things in the Real World'「天文学の博士課程の学生が社会に出る前にできること」。天文学を修めた学生が社会に出る時にどのような強みがあるのか、どんな可能性があるのかを1時間お話ししてくださいました。講師の方はオーストラリアで天文学の博士課程を修了したのちにアメリカで衛星機器開発に携わり、再びオーストラリアに戻ってきてから民間企業に就職された方です。

天文学者としてのキャリアパス

優秀な天文学の研究者としてのキャリアパスはこんな感じである。
博士の学位取得→ポスドク(任期付の研究員)をいくつか渡り歩く→大学・研究所などで研究職を得る→大学で教授なる

そんな人ばかりではないので・・・

 しかし実際には天文学で博士の学位を得たのちに天文学の世界に残っている人は以外と少ない。オーストラリア国立大学で天文学博士になって10年、20年たったのちに天文学のフィールドに残っていたのは48人中12人である(1980年代卒業生を講師の方が調べた結果)。(ちなみにオーストラリア国立大学のレベルは世界ランキング100の中に入っており、非常に高いレベルで天文学研究に取り組める場所である)つまり75%もの人が天文学の学位を修めた後に違うキャリアに進んでいるのだ。

天文学の研究を通して身につくスキル

 天文学の学生たちは研究活動を通して以下のようなスキルを身につけることができる。もちろん、全てが社会に出た時に役立つスキルだ。

  • 物理などの理系基礎知識
    ◯物理学(力学、電磁気学、熱力学、流体力学、量子力学、相対論)、数学(線形代数、微分積分学、統計学、フーリエ変換、テンソルなど)、プログラミング
    天文学を研究するためにはその基礎となる学問に精通することが必須となる。天文学のPhD学生と数学や物理の議論をすると他の専攻の学生と負けず劣らず高い知識を持っていることがわかる(らしい)。

  • 人付き合いのスキル
    ◯信頼、チームワーク
    研究室内で各学生が個別の研究をしている場合でも共同研究者や研究室の仲間と協力関係にある。例えばカメラ開発をする場合はカメラの設計者、レンズのスペシャリスト、発注先の企業など色んな人と協力して進める。他の研究でも研究室の仲間や他大学・海外大学の共同研究者となんらかの協力をしながら研究を進める。このような環境の中で仕事をきちんとこなす・コミュニケーションをとることで他者から「信頼」を得られるようになる。

  • 自己管理能力
    ◯マルチ・タスキング、タイムマネジメント、プラニング、モチベーションの維持
    自分の研究の他に講義の受講、他のプロジェクト、論文を読むなど複数のことを同時にこなしていかなくてはならない天文学PhD学生はマルチ・タスキングのスキルが高い。また、あらゆるものに締め切りがあり、その締め切りまでに計画的に仕事を進めていくタイムマネジメントが必要になる。また、あらゆる研究を始める時、進める時、完成させる時を通して自分のモチベーションを維持する能力が身につく。

  • 書く力・伝える力
    ◯論文執筆、研究会要旨執筆、研究費獲得書類執筆、学会発表、プレゼンテーション
    論文執筆、プレゼンテーションなどを通じて自身の研究やその他のことを論理的に伝える力が身につく。

  • 教える力
    ◯授業、アウトリーチ、ティーチングアシスタント
    博士課程にもなるとティーチングアシスタントやアウトリーチの活動で難しいことをかみ砕いて相手にわかりやすく伝えるということをする機会が増える。

  • パソコン関係のスキル
    ◯MAC, Linux, LaTex, AIPS, CASA, IRAF, python, perl, fortran, C, C#, shell,,,,

    天文学の研究にはどの分野でもあらゆるプログラミング言語やパッケージ、ソフトウェアを使用するのでその道に自ずと強くなる。

このようなスキルを持ってどのような仕事に出会えるか。

 オーストラリア国立大学で天文学博士となって卒業た方々の今の仕事としては・・・IT系の仕事、携帯電話会社の仕事(技術者として入社してマネージャーに)、防衛関係(建物や乗り物の設計開発から解析、通信技術まで様々!)などが挙げられる。ちなみに講演者の方は「振動」をキーワードに開発や性能調査を行っている会社に勤めていらっしゃって最初は技術者として就職したものの、プロジェクトマネージャーから経理関係まで様々な役職をこなした経験がある方でした。日本でも天文学の学位を取った後に様々な分野に就職している方がいらっしゃいます。自分のスキルを強みに将来のお仕事を考えていきたいですね。

まとめ

天文学の研究を通じて他者からの信頼、マルチ・タスキングなどを身につけておけばどんな環境でも仕事をすることができる。

この記事を書いた人

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Chey Saita
現在地:日本
ベルギーで幼稚園時代2年半、マレーシアで小学・中学時代4年間過ごす マレーシアでは英国系インターナショナル・スクールに通う 帰国後は兵庫県立芦屋国際中等教育学校に編入。3期生。 鹿児島大学理学部物理科学科宇宙コース->鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻 第2回サイエンス・インカレ ファイナリスト IAC2014(宇宙国際会議)のJAXA学生派遣プログラムの代表生 トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム 1期生 オーストラリア国立大学にて電波天文学を研究するために留学

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